コロナと小生の話 (下)

 

※2020/05末くらいに書いたやつ※

  

 

仕事着がない。

 

 

海外駐在員の一時帰国時の出社は何となく普段着でもOKといった暗黙の了解があるのだが戻る目途がたたないため通常出勤になるので出来れば仕事着が欲しかった。

初日はスラックスやシャツなどはないので普段着のズボンを履いて何となくセーターっぽく見えるユニクロのプルオーバーフリースを着て出社した。

精一杯のフォーマルである。

千葉では似合うと褒められたが関西の田舎臭い芋侍が集う弊社では「フリースなのにジッパー無いやんw」という反応であった。

 

相変わらずコロナ、O157 いじりを受けながら仕事をしていると「でもよかったじゃん日本に長くいられて」と言う人も出てきた。

悪気はないのだろうがこれがしんどかった。

確かに日本にいるのはいいのだがこの宙ぶらりんが続くのは大変なのだ。

 

半年前、関西本社を鬱陶しく思い、田舎暮らしで大した事もなく仲の良い先輩や友人は転職してしまったのでいち早くここから脱出したかった。その折に来た中国赴任の話だったのにこれである。

息継ぎをしようと水面に顔を出したら一瞬にして足を引っ張られて水中に戻された。

承太郎がDIOにやったやつ。息が続かない。

ただまぁ仕方あるまい。我慢だ。 

 

 

夕方のニュースではどんどんコロナが感染拡大していると言う。

どうも戻れる気配が無い。

 

 

 

数日働くとパンツなどが足りなくなる。

ズボンではなくパンティだ。ズボンもないが。

スーツケースひとつの荷物では数カ月はもたない。

いつも同じフリースを着て会社には行けない。

着るものも履くものも何もない。

なんせ全部中国だもん荷物。

 

 

ユニクロでスラックスやセーター、パンツなどを買った。

はい1万円。

 

洗剤がない。歯磨き粉がない。食い物がない。日用品全部ない。

はい1万円。

 

出社する靴や傘、仕事道具もペンもない。全部中国持って行っちゃった。

はい1万円。

 

寮の後輩デーモン達が腹を空かせて外食についてくる。

はい1万円。

 

寮費払ってね。

はい1万円。  

 

ド田舎なのに車が無い。社用車借ります。

はい週500円。

 

会社からの支援はない。

強いて言えば車の有償レンタル。有償かよ。

さまぁ~ず三村もここまでストレートにはツッコまないであろう。

 

休みの日だって趣味の釣り道具も本もない。

金は減る一方。

日本の口座には給料とは別で留守宅手当が数万円入るが税金が引かれて口座には寸志の額だけ入る。

 

はい差引して大赤字。

 

ベースの給料は中国口座支給。

しかも収束まで日本勤務になったため給与の大半を占める「地域手当」「職責手当」をカットされた。

恨むべきはウィルスなのに会社に腹が立った。

なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ。

 

そういえば話題の給付金よ。

コロナの影響で日本に足止めを喰らって難民状態だが住民票を中国に移しているので給付金がもらえない。全国民と言ったくせに住民票登録の有無で決まった。

一寸先が暗いような生活難とまではいかないがコロナウィルスによって収入は半減、自由に手を付けられる金は上記の1万2千円、荷物や日用品もない。サバイブするために預金と身を削って乗り切ろうとしているのに、住民税も年いっぱいまで払っていたのにこの仕打ちである。

住民票基準でないと関係のない在外日本人全員にも配らなきゃいけなくなるって言うなら役所で本人申請したらOKじゃダメかね。その期間は日本にいるんだから。

 

会社に相談しよ。

 

小生「会社都合の赴任で10万もらえない。荷物が無いから明日着ていくシャツもない。買わなきゃなんにもないわけ。言いたいことわかる?小生が一番困ってんの。お前らが給付金出せよ。」

経理「給付金は会社とは関係ないから無理です。」

小生「そうですね。失礼致します。」 

後ろ腕組みで中指を立てた。

困ってるんだ、10万くれよ。

 ※2020/12現在も夏に予算が通ってぬか喜びした以来、在外邦人への給付は無い。

  帰国したら真っ先に議事堂に糞をぶっかけてやる。

 

中国での生活も仕事も潰された。

荷物も中国。出費が嵩む。日本の仕事は訳が分からん事をさせられている。

土日が来ても友人は近くにいない。おまけに外出自粛を強いられている。

 

 

緊急事態宣言から都内などでも自粛や我慢が続き職を失って食えなくたった知り合いもいる。

 

働けているだけマシ、と思う一方、

小生はもうずっと前の2月半ばから我慢と自粛が続いている。

元の生活に戻れる目途もない。

 「なんで小生だけ、、、」

小生だけでないのにそう思っていた。 

 

数カ月経った。

 

地方組の唯一の癒しであったGWの帰省も感染拡大防止のために我慢せざるを得ない。

兄弟友人とのバス釣り大会、大学同期の友人たちとの時間、会社を辞めて東京に住むブロとのお食事会、地元のバカうまいコーヒー屋でタバコ吸う、同級生とのポケモンバトル、気になるあの娘とのデート、ザリガニ取り、猫のちゃぴもんと散歩する、家系ラーメンを食う、オカンとホームセンターに行ってデカい観葉植物を買ってやる、親父と近所の寿司にいく、あと諸々まだまだ、最後に足りない服とか荷物を実家から回収する。

 

 

全部白紙。

 

 

世間の暗い嫌なニュースしか入ってこない。

自粛をするとかしないとか、マスクを着ける着けないだので感染予防などを飛び越えて各々の意思や価値観が剥き出しで晒され、エルサレム奪還の宗教戦争のようになってきている。カオス。

 

 

GW、仲の良い後輩が東京へ帰省した。

自粛が自粛である以上、自粛警察みたいな阿呆にはなりたくないが腹の底ではムカついていたと思う。

「こっちは我慢してんのになんでお前だけ。お前みたいなやつのせいで。」

 

でも【感染拡大防止】という大義で「小生だけ損はしたくない。」という気持ちを隠しているだけだった。全く以って自身が未熟で情けなくなってしまった。

後輩は元気に寮に帰ってきた。その晩小生の部屋にも普通に入ってきた。

ドス黒い感情に蓋をするため Netflix の Good Place  を観て寝た。 

 

 

 

 

今朝トーストを焼きたかったがお気に入りのあのトースターがない。

昼から人込みを避けて釣りに行きたかったが釣具がない。

夜はレイトショーに行きたかったが開いてすらない。

さっき爪を切ろうと思った。爪切りも無かった。

 

 

我慢して、落ち込み、苛立ち、とても疲れた。辟易している。

ここだけ見ると病んでいるように見えてしまうがご安心を。

小生は怒っている。5分に1回の頻度でキレている。

今、変死したら文字通りに「マジの憤死」だと後世に伝えてくれ。 

 

 

鬱憤を晴らすために最近は肩甲骨回しと裏山でのウォーキングを始めた。

金もかからないし思いのほか気持ちが晴れる。

次にみんなと会うときはファイトクラブのブラッドピットみたいになってるぜ。

 

 

コロナと小生の話 (下)