マットレスを買った話(下)
マットレスを買った話(下)
(上)からずいぶん経ちました。が、内容は(上)のすぐ後の話です。
追加料金を払いピンクのふかふかマットレスをマンションまで運んでもらい、
ベニヤ入り旧マットレスを引き取ってもらうことにした。
搬出。
旧マットレスには当然、これといった名残惜しさも無くただ混沌と煮えた怒りや憎しみの感情しかなかった。
早く出ていけと睨みつけたが旧マットレスは180*200*20の大きな図体で業者に運ばれながらもズルズルと部屋に居座ろうとして往生際が悪かった。
小生に一か月間悪夢を見させ続けたこの旧マットレス。
どっしりと柔らかそうな見た目で小生を騙し裏切った。
羊の皮を着た狼。
a wolf in sheep's clothing!
披着羊皮的狼!!!!
ダメ押しにどかした旧マットレスの下から出てきた前任者の嫁さんのものであろうと思われるカピカピになった3枚の使用済みオリモノシート。
物心ついた時から田舎のかあちゃんに「あんたが兄弟で一番温厚に育った」と言われ続けた小生もキレた。
許せない。
玄関先で「はいはい出ていきますよ」と憎らしい表情で壁に寄り掛かった旧マットレス。
怒りの過加熱により水分が飛びコールタールのようにドロドロに煮詰まった一か月分の憎悪を注ぎ込み、小中高サッカーで鍛えた鞭のような、それでいて荒々しい蹴りを一撃、旧マットレスへ冥途の土産にお見舞いしてやった。
ベニヤ板が硬く右足小指が粉砕した。
すごく痛かった。いくら小生でも骨は鍛えられない。
相討ち狙いで最後まで小生を苦しめてくる旧マットレスであった。
その後無事業者に運ばれていき葬られた。
最後のカウンターは敵ながらあっぱれであった。
しゃがみ込み痛みに耐えていると新しいマットレスが運ばれてきた。
すぐさまベッドフレームにはめ込み、会社のボスがサイズを間違えて買ってきたシーツ(150*200㎝用)を敷いた。
新マットレスとの輝かしい未来に嬉しさ爆発。
小生が犬だったら早速にマーキングも兼ねた嬉ションをしていただろう。
最高の夜をセッティングするために、必要なかったが寝室の床を水拭きして綺麗にしたり、いつも以上に念入りにシャワーを浴びた。パジャマには綿100%のシロクマのプリントしてあるお気に入りを着た。
夜中に喉が渇いて起きないようにしっかり水を飲m、おっとアブナイ!夜中のオシッコで起きないようにちょびちょび飲もう、LINEの通知をオフにして目覚まし時計をセットする。
電子タバコを吸いながら、ベッドに置いたスピーカーからお気に入りのラジオを流す。
くだらないOPトークが始まり、嘘ゴシップを公共の電波で垂れ流すコーナーでは、
鳴きが入ってテーマ曲のBruno MarsのRunaway baby。
寝る前とは思えないほどの高い跳躍で新マットレスに飛び込む。
ベニヤ入りの旧マットレスだったら着地の瞬間にアバラの一本でも折れていただろうが新マットレスは不慣れながらもしっかりとしたクッション性から程良いトルクで小生をボヨンと跳ねさせてくれた。
スピーカーも一緒に跳ねて転げた。
マットレスの中でラジオが反響している。まぁいいや気にしない。
最高。
ベッドがふかふかで涙が出てくる。
寝返り打ち放題、腕も痺れない、腰も背中も良くなっていくだろう。
目を瞑って耳を澄ます。
マットレスが歌っている。
Well, looky here, looky here.
Ah, what do we have?
Another pretty thang ready for me to grab.
おいちょっと見てみろよ
何だと思う?
また別のかわいこちゃんが俺に捕まるのを待ってるぜ
But little does she know
That I’m a wolf in sheep’s clothing
‘Cause at the end of the night
It is her I’ll be holding.
でも彼女は知らないんだ
俺が羊の皮を着た狼だって
なぜって夜が明ける頃には
俺の腕に抱かれているんだから
なんだこいつも羊の皮を着た狼じゃないか。
まぁ柔らかいしこいつになら大歓迎。
よし命名だ、今日からこいつはBruno mattress、なんつって。
マットレスを買った話(下)