コロナと小生の話 (上)

 

※これ書いたの2020/04くらい※
 

 

 

いや参ったね。

 

 

 

コロナと小生の生活についてつらつらと書いていく。

 

2月初旬、中国武漢からジワリと滲み出したウィルスが春節旧正月)の中華13億大移動により「国内に留まらずに方々へ拡散されるのでは?」と、この段階では懸念程度であった。

 

 

武漢と住んでるとこ近いの?」とよく聞かれる。

武漢と小生の住んでいる街は遠い。

が、距離はあまり関係ない。

 

 

ウィルスが全長20㎝くらい生物なら可愛いものだ。

2足歩行の1頭身、知能指数が極端に低く、ゆるキャラのコロくんとコロちゃんみたいな。

短い手足でチコチコ歩行するのが唯一の移動手段、短い腕で持ったフォークのような槍で刺されたらそこそこの痛み、クリーンヒットすると稀に病気になる。性格は見た目に反して臆病で車や電車のような大きくて音の鳴るモノが苦手で放っておくとだいたい3時間くらいで死ぬ。

そうであれば街の物理的距離で安全性は計れる。なんせ雑魚だから。

 

       

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残念ながらウィルスというのは上記したような薬局にある絵本の中のワンダーな生物ではない。

 

射程の短いフォークの突きを躱し、無造作に1頭身の顔面と胴体が一緒になった部分を蹴り飛ばし退治することが出来ればいいのだが、奴らはとても小さくとても賢い。

詳しくはわからんがすごい増えるし場合によっては特性を変えたり変身する。

 

実際彼らに脳みそだとか神経だとかそういった機能はないので重なり合った事象の轍に沿って水が流れるように広がっていく。それは非常に賢い。

 

 

 

小生の住む街と武漢は地図で見ると大体東京~青森間ほどの距離だ。

遠いっちゃあ遠い。

なにが問題かというと飛行機の直行便があり、現代ではそれはもうお隣さんという話。

 

春節休暇での中国国内はおそらくパンデミックに陥るであろうという話はあったが、4月時点での拡散域とウィルスの悪性にはほとんどの人が考え至らなかったと思う。仕事場のデスクの引き出しからタイムマシンに乗って大声を出しても「お前ちょっと大げさだよ」と一蹴されていただろう。ネコ型ロボットもお手上げの展開だ。

 

 

春節でのお正月休みで日本へ帰国する段階では「念のため上海東浦空港では人と離れてマスクは着けておいてください。」という程度。

帰りしな「コロナと言ってもただの風邪じゃ。でも折角の帰国期間に風邪は嫌じゃのう」と小生もマスク着用、トイレを見かけるたびに手を洗うようにした。でもその程度。

普段つけないマスクがとてもストレスになった。耳が痛いし鼻から排出したはずの空気が行き場を失い再び鼻腔に戻ってくる。気分が悪い。手もカサカサだ。

 

 ボーディング前にベンチで隣に座った爺さんはマスクを外して空のペットボトルにドラムロールを奏でて痰を吐き続けていた。

 

 

 

 

 2月1週目

 無事か無事でないのか定かではないが無事帰国。

日本に帰ってきてから「コロナイジり」を千葉で1万回、関西で5万回、計6万回受けた。ただその頃を思えば、みな遠い国の話題と目の前に偶然いる小生を無理やりにでも結び付けた自身と関係のない冗談だった。

 

帰国してまずは関西の会社に出社すると

「こっちくんな!」

「コロナや!コロナがきたで!」といった挨拶から始まる。

関西人が言うところの「久しぶりだね」「元気だった?」という意味である。

入社当時の小生なら一人ずつ胸倉を掴んでいただろうが4年目にもなると瞬間的な超訳が可能になる。我ながら成長したものだ。

部署挨拶に行くたびにそういった手荒い歓迎があったため、やり返さねばと挨拶中に激しく咳き込むというギャグをかましたのだがどの部署でも一切反応がなかったのは未だ根に持っている。

 日本の会社では小生以外は誰一人マスクを着けていなかった。

 

2日間出社し仕事を終えたところで千葉の実家に帰省。

筆頭株主 兼 社長により慌ただしく年末に中国へ強制送還され「1月1日だけ祝日なので中国工場もお休みです」という驚愕のお正月休み消滅の事実を知り絶望と憎しみに暮れていた小生。

そんな日本の正月休みを堪能できなかった小生の久しぶりのお休み。

闘う男は常に心の港を持っていなければならないのである。

 

地元を離れ就職すると長期休みの帰省は大変貴重で尊いモノなのだ。

邪魔をする者が現れればシバき倒し、山が有れば登り谷が有れば越えてまでも満喫したい。「長期休みで旅行行こうぜ」より地元に帰りたい。

地元を離れると仕事の友人かそれ以下の単純な繋がりしかないので心を許した人間がほとんどいない。大人になってからお友達を作るのは非常に難しい。

 

地元には家族がいて愛する猫がいて、友人が大体いる。見知った街だ。

ある程度都会なのでサイゼやドンキ、ブックオフといったイカした今どきの若者御用達ハングアウトプレイスもある。

何が言いたいかというと長期休みは速攻で帰省して地元に長居したい。

長期休み中の会社のBBQなど言語道断のファックオフなイベントで毎度断っている。

形振り構わぬ必死さなのだ。

 

遠方で就職した人間にしか理解できない感情だと思う。

きっと同じようにしてJames Bayもハートフォードシャー州の実家を思い出しながらHold back the riverを書いたに違いない。

 

 

 

5日間程度の休暇を堪能したところで先に中国へ戻っていたボスから電話があった。

「ニュースで見ていると思いますがひどい状況になっています私は職場に行っていますが現地スタッフとは別の部屋で2週間隔離近所の飲食店もマクドとケンタッキー以外は閉まっています小生くんには自宅待機を命じますその間に領収書切って出来る限りマスクを買っておいてくださいそれを後日DHLで中国へ発送してくださいでは。」

息継ぎをしたタイミングが分からないくらい早口だった。

 

 

 

2月2週目

この辺までは小生も「お、いいね。休み延長でゆっくりできるやん。」と鼻くそをほじりながら猫を愛でていた。なんとなく鼻くそをほじった指を猫の鼻先に差し出すと舐めてしまった。可哀想なので急いでやめたが可愛い奴だ。

千葉の片田舎に釣りに行くついでにドラッグストアに寄ってはマスクを買った。

病児保育をしていた母親も仕事の伝手でマスクを買ってきてくれたりもした。

 

 

 

2月3週目

snsでも近所の井戸端会議でも「マスクが売切れ」という話が出始めた。

相も変わらず実家で猫を撫でながら鼻くそをほじりのうのうと過ごしている。

 

 

2月4週目

当初は様子見の自宅待機だったが2週間目に差し掛かったところで関西出社の命が下った。会社も小生のようなスーパールーキーを遊ばせておきたくはなかったのであろう。

 

愛猫ちゃぴもんとの別れを惜しみつつそろそろ暇だな仕事するかという気分にはなっていた。なんせ休暇のタイミングがずれているので友人ともなかなか会えないしやることが無くなってくるのだ。

 

関西出社も短期間の様子見って話だしマンスリー契約のマンションかホテル暮らしかぁ。とか思いながらスーツケース一つ持って関西に戻った。

 

電車を乗り継ぎ新幹線に乗り長距離バスでド田舎の本社に帰る。

長距離バスから降りた時はいつも「相変わらずくせぇ町だな」と呟くようにしている。

 

 

会社着。

開口一番総務から

小生くん、この前まで寮いたからホテルじゃなくてまた寮ね。」

 

膝から崩れた。

力が抜けたのではなく絶望の表現としてわざわざ膝を折って地につけた。

 

駐在する前の2年半、耐え忍び住んでいたあの伏魔殿に再び戻るのか。

寮と言っても社会人の住むような寮ではない。

埃と蜘蛛の巣だらけの廊下、半年に一回しか清掃しない共同トイレと風呂、魚の臓物が放置され大量に未知の菌が繁殖を続けるキッチン。時折玄関先に血の付いたイノシシやシカの首が転がっている。数年前までは鵺や鬼の首も転がっていたという。

居間にも吸い殻の山が出来ておりタバコと信じているがこの劣悪な環境下で平静を保つために吸ったら気分が良くなる類のものかもしれない。

思えば私が住んでいた頃も30歳前後の成人男性が夜な夜な居間に集まり裸になって陰毛を燃やして「祭典だ!」騒いだり、同じく裸になり【パンクラチオン】という古代ギリシャ文明で行われていた格闘技を突如として始めたりおかしいなと思う点はあった。その時は全員ラリった人間の目をしていたと記憶している。

 

そんなところに未だ平然と暮らす後輩という名のデーモンとゴブリンの群れ。両者の違いは判らないがそんなところに平然と住む彼らがその類の生物であることは間違いない。

 

住んでいるとだんだんと麻痺してくるが、過去に私の部屋に泊まりに来た二つ下の妹、ベトナムで猫やカエルを食べながら数年生活を送っていた友人も口を揃えて「あそこはマジ汚ねぇ」と言っていた。

 

人間の皮を被った野良デーモン達とまた過ごさなければいけないのか。

元の部屋のベッドとか家具なんかは退寮する際にデーモン達の強奪にあい何もない。

 

やはり小生のような良識のある人間はこんなところ住めない。

そもそもこの季節に布団すらねぇしよ。どうすんのよ。

 

抗議の姿勢で再び総務に連絡すると

 

「寮なのはごめん。も社長の運転手が早朝出発とかに使う当直部屋があるからそこ使って!」

 資本主義の奴隷であるサラリーマン小生に拒否権はない。

 

103号室。

6畳1間で真ん中にちゃぶ台、床に直置きされた安いマットレス。ぼろぼろのシーツが掛かっている。ラジエーターから轟音のする冷蔵庫。壁と家具の隙間には息絶えたカメムシや蜘蛛の抜け殻が埃に絡まって転がっていた。本当に当直室といった感じだ。

 

 

 

あぁ、床が冷たい。

松脂のような運転手のおじさんの匂いに包まれ目を瞑った。

 

 

 

コロナと小生の話 (上)