中国に住む話(上)

中国に住む話(上)


元気だろうか諸君。小生は中国でつつがなく日々を送っている。
言えていなかった人もいるが中国赴任になったのよ。
目にも耳にも馴染みのないところだが人口450万人くらいのそこそこデカい街。

街は大河の河口に位置し古くから貿易で栄え、次第に製造の街になり今では立派な大都市だ。


会社が買ったマンションの13階にある一室。

亜熱帯地域なので窓を開けると少し肌寒く感じるがまだ南風と蚊が入ってくる。

食卓テーブルにテイクアウトのケンタッキーを広げ青島ビールの栓を抜く。

なんか書くか久しぶりに。海外で暇だし。などと新生活をボヤキつつ電子タバコを手に取りスパスパ吸う。

現在、小生が立っている境界線上から過去を振り返りここに至るまでをお話しよう。

 

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大学3年の終わり、強固な意志で海外逃亡。

ダイヤモンドよりも固く鈍く瞬いていた。

 

2年間の休学逃亡劇の末、ギリギリ新卒枠という仮面が被れるうちに就職をした。

別段やりたいこともなく、心を割り裂いて作った薪を情熱にくべるほどのことは見つからなかった。考えたふりをして考えていなかったのか、そうだとしてもそれも仕方あるまい結局仮面を被ってしまったわけだから。

 

遡ること高校時代。
学力相応の高校に入学、成績真ん中、サッカー部、気の合う友人は少ない、面倒だと思った日は学校をサボる。一限に間に合えばいいだろうという合理的で賢明な判断のもと、朝のホームルームをボイコットした結果、年間遅刻回数は100を超えた。126回か136回が最高記録だったはずである。朝起きるのが遅い小生にとって間に合う電車に乗るのが当時一番の困難であった。一限の授業に間に合っているからいいだろ、と主張。学徒としてはあまり良くなかったようで母は激怒、内申点だの推薦だのなんか色々あるらしいがそんなもんは知らん。小生は困惑した。


憂さ晴らしによく聴いていたのがoasisと言うイギリスのロックバンドだった。
最高にクール。
周りはAKB48ブームでアイタカッターアイタカッターアイタカッターイェイキミニーなどという不可解な経を叫びながら踊り狂っていた。奴らを横目に聴くoasisは格別だった。

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数年後、AKB48がアイウォンチューだのアイニージューだのやっている頃にoasisは「兄弟喧嘩」という理由で解散した。常々喧嘩をしていてツアー中にギャラガー兄弟どちらかが逃亡したり、殴り合いの果て鼻血を吹き散らかしながら解散だ!と幾度となく叫んでいた。

またすぐ復活するだろうと思っていたが2020年現在まで彼らの喧嘩は続いている。
仲良くしてくれ。
それでも当時は過去の海外版シングルカット等を中古屋で買い漁り聴いていた。
日本で売られている洋楽CDは基本的にアルバムだけなのでそれに収録されていない別テイクが録音されていたりするものを見つけるととても嬉しかった。
もちろん英詩の聴き取りも出来ないし、歌詞カードを見ても何を言っているか本当に意味が分からなった。和訳を見ても絶望的なまでに詩的で尚更であった。

ぜひ Champagne Supernovaという曲を聴いてほしい。

ただし歌詞を理解しようとすると意識が脳天を突き抜け、大気圏を飛び出しそのままの勢いで遥か銀河の端のとてもさみしくて暗いところあたりまで魂を放心してしまうので注意してほしい。小生くらいこの名曲を聴き込むとその狭間を行き来することが出来るようになる。


年老いて死を迎えた時、時代が進み散骨を大気圏外で行う「宇宙葬」が可能になり同年代の90年世代間で爆発的ブームが起きる予定。

その頃には一般的な火葬をされたガンダム世代があの世から恨めしく思っているだろう。希望者が膨大に増え、宇宙葬用に開発された「宇宙デブリの発生が少ない宇宙環境にやさしい素材」を使った打ち出したっきりのEcoマーク付きロケット便が大量に仕込まれマスプロダクションとしてパッケージ化される。大量生産、便数増加により費用もそんなに掛からなくなっているはずなので、そうなれば小生の亡骸は宇宙に散骨して欲しいと思っている。
散骨された小生が宇宙空間に漂う。星と共に粒子状になった骨はさながらシャンパーニュの泡のよう。

遠くで超新星が爆発。

泡が弾けた。                 

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そのタイミングでこの名曲を流してほしい。
それくらい好きな曲だ。

 

 

そんな妄想はさておき、
「英語わかったらもっとoasis格好良いのかな。」
という理由で外国語系の大学に入学。


お気楽大学生活を謳歌しているうちに就活の時期に差し掛かる。
大学時代は本当に上記した1行くらいの短さであった。

 

「やりたいことねぇから就職あとでやるわ。やるやる。後でちゃんとやるわ。
なんか大学の同期もパイセン達も仕事してないやついっぱいいるし。」

 

自分に言い聞かせたのか母親とのせめぎあい中に言い放った言葉かは忘れたがこんなやり取りがあったと思う。

 

 

 

一度作戦会議。

ここが間違いなくターニングポイントになっている。
しっかりと建設的で実現可能な計画をダマがなくなるまでしっかり練らなければならない。


「そうだな、とりあえず海外逃亡しよう。」

 

 

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ナポレオンもたまげて落馬するほどの大名案である。


ここでその辺の凡夫は無理に就職しようとして失敗または入社後のキャリアを考える暇もなく馬車馬のように働かされて2年目くらいから脳が溶解を始め汗と一緒に排泄されてしまい、過酷な長時間低賃金労働を強いられ少ない小遣いで小便にしかならない安い発泡酒を飲み、虚空を見つめながら涎を垂らして嗚咽して泣くのである。

酷い姿だ。小生にはここまでの未来は容易に見据えられた。

こうなってはいけない。



我が国では後付けでも後乗せでも採用側が「こいつにします」とした時の保険をたくさん持っている奴が好まれる。
ということは、海外逃亡は悪手に成りうる。空白の放浪期間、面接官も「海外に行った動機や得たものを~」という質問しやすいだけのしょうもない質問を「お前を試す質問だ」みたいな顔でしてくる。ここでうまく学業や就職後のヴィジョンに紐づけてやるとまぁ嬉しそうな顔をする。

どうだっていいだろう。

たまたま行き着いた先のダーウィンで見た夕刻のビラボンを横切る水牛のことは小生だけが知っている。

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ただここは紛れもなく日本で、小生もその日本社会に属するのでこれでは困る。

ただの馬鹿な変人になってしまう。

なので英語専攻だったから英語圏で留学やらワーホリで働きましたっていえば逃亡の言訳が体の良い理由に様変わりする。

完璧なプランだ。

馬に乗りなおしたナポレオンが再び落馬するかもしれない。

その上で出来る出来ない関係なく「英語出来ます」一点ゴリ押しである程度なら就職先見つかるだろう。高校時代のロースクール出身なのに教師になった奇天烈先生が「駐在員とかになったら一流企業じゃなくてもある程度金貰える」って言っていたな。面白そうだし。ええやん。
なんとその間、7分くらい。

これは小生だから出来た天才的超高速打算であって凡夫には不可能な発想である。
全会一致で決議。状況開始。
何となくの道筋が見えてきた。

 

そこで唾を付けたのは某アウトドアメーカー。

現在小生の所属する秘密組織である。訳のわからないものを扱うより好きなものを扱おう。もしかしたら甘い汁も啜れるんじゃあないだろうかという考えもあった。動機が不純でも関係あるまい。誰が知ったことか。数十分の面接で見破れる奴など存在しないし小生もそこまでマヌケではない。
本社、多数の支部、自社工場が海外にあります、と。ふむふむ。グローバル企業だのなんだのやけに推しているね。
これはいける。

ちなみに会社HPでグローバルだ海外だと異様にプッシュしている中小企業は大体下記3点のどれかだ。
① 本当にグローバル
② 現在の会社のトップの功績が海外進出
③ 海外に行きたがらない芋社員ばかりで海外に行ってくれる若手が欲しい
単純明快。弊社も例に漏れない。なんだったら全て該当している。

 

口八丁と新卒仮面のおかげでうまく潜り込めた。しめしめと髭のない顎を撫でる。

 

ちなみにメーカーと言うのはいらっしゃいませのおじさんではない。作る方。
わかりやすく言うと靴屋ABCマートに就職したのではなくオニツカタイガーに就いたという訳だ。製品を作って販売店に置いてもらう方。
たまに「釣具屋さん?君がいらっしゃいませとか言うの??」という馬鹿な質問をしてくる輩もいたがもれなく千葉市青葉の森公園の雑木林の地中、あるいは館山市鋸南町沖水深50mの小岩礁地帯に沈めてきている。

行方の分からなくなった共通の友人がいたのならば謝罪しておこう。

 

続く

中国に住む話(上)