コロナと小生の話(中)
※書いたの2020/05くらい※
自宅待機から再び本社に召集された小生。
中国渡航まではホテル暮らしかと思いきや社員寮に戻されてしまったのである。
そして検便をした。
命からがらcovid-19の恐怖から逃げ果せた小生であったが安息の地はない。
寮という魔窟に戻って生活していると後輩と呼ばれるデーモン達が「お久しぶりっす小生さん」と涎を垂らしながらゆらゆら近寄ってくるがその中に一匹だけ顔面蒼白で冷えピタを張っているやつがいた。比較的デーモンの中でも知能指数が高く真面目な光崎デーモンだ。
小生 「どしたの光崎デーモン。調子悪いの?」
光崎デーモン 「そうなんすよ。発熱と下痢がひどくて、、、」
小生 「コロナだったりしてな」
光崎デーモン 「こっちのセリフのはずなんすけどねそれハハハ…」
なんて他愛もない話をして光崎デーモンは大人しく自分の巣に戻っていった。
翌日、光崎デーモンは体調不良で欠席していた。
光崎デーモンの部署の人に
パイセン「小生くん寮戻ったんだ?
数日前から体調悪そうだったけど光崎デーモンくん大丈夫?」
小生 「昨晩会ったら死にそうだったし今朝時点で死んだかもしんないっすね」
と話しているとその人に光崎デーモンから着信。
電話を取ったその人も話しているうちに昨晩の彼のように顔面蒼白になっていく。
電話が終わるとその部署で「明日この部屋の全員病院行って検査」という命令が出た。
小生 「お、小生を差し置いてコロナ?うつしちゃったかなガハハ」
パイセン「いや、もしかしたらそれよりやばいかも」
小生 「え?感染するタイプですか?」
パイセン「ちょっと言えない」
小生 「小生たち寮での濃厚接触者だから教えて」
パイセン「そりゃそうか。」
パイセン「O157だって」
はいきた。嘘だろ。
光崎デーモンは季節外れのO157に感染していた。
O157って夏になるやつちゃうんか。
症状が重篤らしく急遽、隔離入院になったとの連絡だった。
大パニックの寮生。
会社からの定期的な視察で寮の衛生状況が注意されなかったことは一度もない。
バカきたねぇため幾度となく総務から指導が入っているが、人間との文化の違いで野良デーモン達は理解できず「…そ…うじ…?」といった感じでいくら注意しても無駄なのだ。
そのため役員含め総務からは「寮のキッチンからO157が出たに違いない!あの馬鹿どもが!もう寮と寮生を丸ごと焼き払うしかないッ!!!」という怒号が飛んでいた。
しかし原因はおそらく数日前に焼肉に行った際に食った生焼けのホルモンではないかと仲間の野良デーモン達がおろおろ怯えながら言っていた。
思い返せば前に焼肉に連れて行ったら知能指数が低い彼らは強火の中心にホルモンを置き、ホルモンから垂れた脂で網は大炎上、その業火で表面が焼け焦げ、あせって生焼け状態で食べてしまう愚行をみせてきた。
その後も小生が遠火でじっくり焼いているホルモンを強奪し強火直下で表面丸焦げ中生焼けにして「焼けましたよ」とわざわざ取ってくれてたな。
「寮と寮生ごと焼き払い事実を無かったことにするべき」というタカ派と「消毒で様子を見よう」というハト派での話し合いの結果、野良デーモンごと焼き払うなんて冷酷で差別的だ、と企業イメージを損なう可能性が考慮されすぐさま会社の素人感染症対策衛生班(総務課)が寮に消毒スプレーを撒きに行った。
マスクに手袋をした大人が所構わずアルコールを噴霧している。
もうええんじゃこういうの。小生は中国でもう見てるから同じようなやつ。
勘弁してほしい。
コロナに続きO157の危険に晒される小生。
翌日には保健所の黒スーツがやってきて素人感染症対策衛生班(総務課)の消毒対応の甘さにこってりと説教をして指導のもと寮を再消毒。
寮生は濃厚接触者として検便の義務があり自分の糞を綿棒で突かなければいけないことが決定した。
野良デーモン達は阿呆なのでうんちをつっつけることを面白がっているが小生には自分の出した糞便を突かなければなれないのは非常に屈辱的であった。
それに小学生以来の検便なのでやり方がわからなかった。
どうやんのあれ。紙コップにうんこ出すんだっけ。
尿と違って放尿中にサッと採取したり出来ないし、便器へ落下中の糞に対して瞬時に綿棒を突っ込む自信はない。
検便の上手な仕方をツイッターで募集したところまさかの女の子の同級生から「逆方向を向いてするといい」という有益な情報を得た。
洋式便器を抱え込むような姿勢ですると便座手前のシャローエリアに脱糞可能とのこと。
そこから穴に落ちたマンモスに槍を投げるように安心して綿棒を刺せるのだ。
古代原子の血が騒ぐ。良い作戦である。
教えてくれた麻子ありがとうこれなら成功するぞ。
明朝、便意がやってきた。遠く朝靄の向こうから決戦の法螺貝が鳴った音が聞こえた。
待ったの無しの一発勝負である。
急いで検便キットを手に持ち、教わった便座を抱える姿勢へ。
が、座れない。
完璧に思えたこの作戦にも穴があったのだ。
膝下まで下したズボンが便座の手前に引っ掛かり座れない。穴どころではない。大きな誤算だった。
肛門が便座の遥か手前にある状態で動けない。
その時点で感覚、すでに頭が出ている。
1枚しかないスラックスに糞を引っ掛けてしまう。
もしくはこのまま床に脱糞してしまうかもしれない。はたまた両方か。
糞便の中にO157菌が潜伏していたら床から感染が広がり、場合によっては小生の排便ミスで人を殺してしまう可能性も出てきた。親が泣く。被害者の両親も泣くだろう。
そうでなくても床脱糞を後輩デーモンに見つかったら寮生の間で長年語り継がれる伝説となってしまう。その場合は小生が泣く。
そのまま通常の姿勢で排便すれば危機は回避できるが総務部に下記の様に説明しなければならない。
「検便の時にそのままうんちが流れてっちゃって取れませんでした。」
大人の吐くセリフではない。
生唾を飲んだが冷静になり事前準備していたB案を思い出す。
トイレットペーパーで島を作る。
柔らかい土台だが便器内のシャローフラットエリアにトイレットペーパーを放ちペーパーアイランドを誕生させれば正面座位でも糞が湖底へ滑落をするのを抑制することが出来る。
少なくとも糞の尻尾辺りを島に乗せさえすれば検便は可能だ。
安定感のあるタクティクス。これだ。
急いでトイレットペーパーを引きずり出し手にまとわりついた紙を便座内に放ちシャローエリアからシャローフラットエリア、便器の中心にかけて日本創成伝説の弉諾神の如く半島を誕生させ、即座に身体を反転させ脱糞した。
半島にしっかり乗った。水辺で息絶えたマンモスのようである。
神から原人に戻り綿棒を取り出して一突き。
マンモスは力無く横たわっている。
安堵と達成感に包まれながら検体をしまった。
無事検体を採取し悠々と総務課に提出したが光崎デーモンが入院している病院から連絡があったようで、「ベロ毒素」という危険な毒素を発生させるO157 ではないので検便は不要とのこと。やっぱ小生たちのクソは要らねぇってよ。
受け取れよ。あんなに頑張ったのに。
保健所も市内で年に3件くらいしか起きない事件だったし、まさかの冬場で張り切りすぎたようだ。
行く先々でパンデミックが発生し常に何かしらの保菌者扱いされていたため会社では「疫病神」と揶揄されたが流石にみな同情の顔をしていた。
「小生くんは人柄の良さからウィルスや菌にも好かれるんだよ」
「免疫力が強いとモテます」
「お前からワクチン取ろう」
といった称賛や同情も聞こえてきたが今まで以上に物理的な距離を取られている。
1歩近づくと2歩下がられる。
そんなこともあり小生は小池のばあさんが「3密じゃ」と言う前からソーシャルディスタンスを取られていた。多分日本で最速だったんじゃないかな。
コロナと小生(中)