豪州珍捕物帳

 

土産話にはならないけどちょっと誰かに話したかったくだらない最近の出来事です。 
ここのところワーキングホリデーでオーストラリアのバンダバーグという田舎町で6人部屋のドミトリーに滞在してるんです。そこでの話を。


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ーーーーーそれは丑の刻、その
若い男は見た。

神隠しの如く何者かが枕元から何か掴みその手を暗闇に引いてゆくを。間も付かぬうちにその影は部屋の戸から出てそこにはか細い若い男の声だけが残った。ーーーーー

 

 

「…な、なんぞ?

 

 

深夜3時ごろ、人の気配で起きた。なんか今、横にいた。

んで俺の枕元から手を引いていくのが見えた。

怖っ。

どうやらその影は二段ベッドの上の最近来たばかりのドイツ人らしい。

訳がわからなかったがひとまず時間を確認しようとiPhoneを…。

 

ん?

あれ?

 

探しても見当たらない。

まさかスられた!?と思って探し回るもやはり見当たらなかった。

 

即座に

「さ、さっきの影だ、ベッドの上のドイツ人が持っているに違いない。」

と思ってそのドイツ人を追う。

 

部屋から出て彼がどこへ行ったか考えた。

朝一だったので小便にでも起きたんだろと思い個室トイレに行くと電気が点いていた。

 

「ここだ。」

「奴はこのトイレに身を隠している。」

 

 

昨晩結構飲んだのに加えて、寝起きのおかしなテンションとiPhoneを取られたかもしれないという緊張感で何故か刑事物の主人公のような気分になっている俺。

 

しかしここで疑問が浮かぶ。

 

『果たして本当にこいつが持っているのか?』

 

証拠もないし証人もいないし逮捕状もないし

寝耳にウォーターだったから現行犯で捕まえられてないわけ。

 

 

そこで仮に、仮にね、今目の前のトイレで排便なりなんなりしているドイツ人が実は俺のiPhoneを持ってなくて、ただiPhoneがベッドの脇に落ちているのを俺が見落としていただけならまずい。非常にまずい。お互いまだよくも知らないのに朝一、尿意で起きてトイレに行って出てきたら眠そうなのに何故か睨んでくるベッドの下の日本人が目の前に立っていたら恐怖だ。俺が逆の立場だったらオシッコ出したばっかりでも絞り出すように小便を漏らすかもしれない。そういえば俺も昨日は酒をしこたま飲んだから俺がなんかおかしいのか。それで一人勝手に妄想捕物帳の主役を演じて彼を盗人として配役し巻き込むなんて狂っていると思われる。

「てやんでい!べらぼうめ!」と言って軽く殴って済ませてくれればまだいいほうだ。
彼はドイツ人。そんなことは起こらない。
おそらくずっと俺のことを「気が違えている日本人」と認識してしまうだろう。

と走馬灯のように一瞬にして考えが巡り結果、

「気が違えている日本人」にならないようにするため必死の追跡からの張り込み捜査はやめてそそくさ部屋へと退散した。

情けないが仕方がない。
「お縄にしてやるゼ!」と犯人逮捕と意気込んできたのに確証がないのだ。

 

町奉行俺、痛恨のミス。

 

 

 

 

ーーー果たして消えたiPhoneの行方は。

 

 

 

 

作戦を練るためベッドに戻る。

とりあえず懸念材料を片っ端から潰すことにした。

 

酔い覚ましに水を飲んで窓を開けて朝の空気を吸った。

完全に起きた。酔いも無い。

 

次に俺の見落としという線を無くすため、ベッドの周辺を整理整頓しiPhoneを探す。

無い。やはりiPhoneは無いので見落としではなかった。

俺は間違ってなかった。良し。いや良しじゃない。

 

パソコンで時間を確認すると3時半。奴は未だトイレに行ったきり。

 

きっとションベンじゃなくてウンコだと俺はすぐに推測した。

頭が冴えてきたのがわかった

 

 

そしてついに夜明けより先に薄暗い6人部屋に光明が射す。

 

「そうだ!仕事に行くため四時にセットしておいたアラームが鳴るはずだ!」

 

これでiPhoneの行方がわかる。

ここに来て町奉行俺、前回のミスを払拭するようなひらめき。

 

「勝負は四時だ。そこで全てが明らかになるぞ。」

 

時刻は3時と50分。あと10分。

4時までベッドで待機。

 

そうこうしていると二段ベッドの上のドイツ人が戻って来た。

 

「(…!手に何か持っている!)」

 

すると

 

 

『ムー、ムー、ムー』

 

 

俺のiPhoneが鳴った!

う、上からだ!やっぱりコンチクショウ!貴様が犯人かドイツ人!

現行犯で逮捕じゃ!!!!

 

と鬼の形相で十手片手にベッドの下からにょいっと顔を出したらそこには俺のiPhoneを抱えて何故か驚いているドイツ人。その顔を見て驚く俺。明らかにドイツ人はiPhoneを見て驚いている。

 

ん?なんでお前がiPhone見てびっくりしてんの?

 

ドイツ人はこっちが「返せ!」と言う前にヒョイっと俺のiPhoneを寄越して、

なんとそのまま寝やがったのだ。

意味不明である。

諦めたのか?盗んだのを認めたのか?

 

「…な、なんなの?」

 

 

と朝一番と同じ言葉が口から出た。

 

捕物帳の山場があっさりと終わりを告げて釈然としない俺だったが仕事、芋掘りの時間なので帰ってきたら尋問してやろうと町奉行魂に誓い芋掘りに行った。

 

 

 

芋掘りから帰ってきて気分は農民から町奉行に戻る俺。

 

部屋に入ると容疑者ドイツ人が部屋のみんなと話していて俺を見るなりみんな爆笑。

訳がわからなかったが「お前なんで今朝俺のiPhone持ってたんだ!」と言ったら

 

 

ドイツ人「I don’t know why I held your iPhone…」

 

 

と苦笑いしながら言ってきた。

 

「あ、アイ・ドン・ノーって。」

 

話を聞くとどうもドイツ人も相当酔っ払っていてiPhoneを俺に渡したのを覚えているけど何故そんなことしたのか自分でもさっぱりわからん、すまん。と。

 

結果ただの酔っ払ったドイツ人の奇行だというオチに納得いかない。


だから未だ俺はこのベッドの上のドイツ人は信用していない。
基本的に、お国柄やら古い付き合いの歴史やらなんなのかわからないけれどドイツ人は良い奴だしなんとなく親日的な印象だ。俺の海外に行った時に信頼する国籍ランキングではドイツ1位、台湾2位、残念ながら日本は3位だ。

いつか彼とも分かり合えるだろうか。