マットレスを買った話(下)
マットレスを買った話(下)
(上)からずいぶん経ちました。が、内容は(上)のすぐ後の話です。
追加料金を払いピンクのふかふかマットレスをマンションまで運んでもらい、
ベニヤ入り旧マットレスを引き取ってもらうことにした。
搬出。
旧マットレスには当然、これといった名残惜しさも無くただ混沌と煮えた怒りや憎しみの感情しかなかった。
早く出ていけと睨みつけたが旧マットレスは180*200*20の大きな図体で業者に運ばれながらもズルズルと部屋に居座ろうとして往生際が悪かった。
小生に一か月間悪夢を見させ続けたこの旧マットレス。
どっしりと柔らかそうな見た目で小生を騙し裏切った。
羊の皮を着た狼。
a wolf in sheep's clothing!
披着羊皮的狼!!!!
ダメ押しにどかした旧マットレスの下から出てきた前任者の嫁さんのものであろうと思われるカピカピになった3枚の使用済みオリモノシート。
物心ついた時から田舎のかあちゃんに「あんたが兄弟で一番温厚に育った」と言われ続けた小生もキレた。
許せない。
玄関先で「はいはい出ていきますよ」と憎らしい表情で壁に寄り掛かった旧マットレス。
怒りの過加熱により水分が飛びコールタールのようにドロドロに煮詰まった一か月分の憎悪を注ぎ込み、小中高サッカーで鍛えた鞭のような、それでいて荒々しい蹴りを一撃、旧マットレスへ冥途の土産にお見舞いしてやった。
ベニヤ板が硬く右足小指が粉砕した。
すごく痛かった。いくら小生でも骨は鍛えられない。
相討ち狙いで最後まで小生を苦しめてくる旧マットレスであった。
その後無事業者に運ばれていき葬られた。
最後のカウンターは敵ながらあっぱれであった。
しゃがみ込み痛みに耐えていると新しいマットレスが運ばれてきた。
すぐさまベッドフレームにはめ込み、会社のボスがサイズを間違えて買ってきたシーツ(150*200㎝用)を敷いた。
新マットレスとの輝かしい未来に嬉しさ爆発。
小生が犬だったら早速にマーキングも兼ねた嬉ションをしていただろう。
最高の夜をセッティングするために、必要なかったが寝室の床を水拭きして綺麗にしたり、いつも以上に念入りにシャワーを浴びた。パジャマには綿100%のシロクマのプリントしてあるお気に入りを着た。
夜中に喉が渇いて起きないようにしっかり水を飲m、おっとアブナイ!夜中のオシッコで起きないようにちょびちょび飲もう、LINEの通知をオフにして目覚まし時計をセットする。
電子タバコを吸いながら、ベッドに置いたスピーカーからお気に入りのラジオを流す。
くだらないOPトークが始まり、嘘ゴシップを公共の電波で垂れ流すコーナーでは、
鳴きが入ってテーマ曲のBruno MarsのRunaway baby。
寝る前とは思えないほどの高い跳躍で新マットレスに飛び込む。
ベニヤ入りの旧マットレスだったら着地の瞬間にアバラの一本でも折れていただろうが新マットレスは不慣れながらもしっかりとしたクッション性から程良いトルクで小生をボヨンと跳ねさせてくれた。
スピーカーも一緒に跳ねて転げた。
マットレスの中でラジオが反響している。まぁいいや気にしない。
最高。
ベッドがふかふかで涙が出てくる。
寝返り打ち放題、腕も痺れない、腰も背中も良くなっていくだろう。
目を瞑って耳を澄ます。
マットレスが歌っている。
Well, looky here, looky here.
Ah, what do we have?
Another pretty thang ready for me to grab.
おいちょっと見てみろよ
何だと思う?
また別のかわいこちゃんが俺に捕まるのを待ってるぜ
But little does she know
That I’m a wolf in sheep’s clothing
‘Cause at the end of the night
It is her I’ll be holding.
でも彼女は知らないんだ
俺が羊の皮を着た狼だって
なぜって夜が明ける頃には
俺の腕に抱かれているんだから
なんだこいつも羊の皮を着た狼じゃないか。
まぁ柔らかいしこいつになら大歓迎。
よし命名だ、今日からこいつはBruno mattress、なんつって。
マットレスを買った話(下)
マットレスを買った話(上)
マットレスを買った話(上)
※遡って2019/1末に書いたやつ※
中国生活も1か月が過ぎようとする頃、会社で転寝しそうになった。
近頃、夜中2時頃と朝5時頃に起きてしまう。
腕の痺れ、腰痛、背中の痛み。
新生活のストレスや大陸独自の未知の病。
色々な可能性が頭を過る。
覚醒しかけているところを脳みそがブレーキを掛け、何とか眠ろうと試みている。
しかし頑なな脳みそとは裏腹に身体は素直。大声でSOSを叫んでいる。
原因ははっきりと分かっていた。
マットレスがめっちゃ硬い。
前任者から受け継いだ180*200㎝の独り身には大き過ぎるベッド。
マットレスも厚さ20㎝くらいあるのだけれど、これがとにかく硬い。
それ自体が硬いかというとそうではなく、表面の綿下1㎝あたりに分厚いベニヤ板のようなものが入っているせいで硬い。何故入れた。
パラッパラッパーのキャラクター達のように体がぺしゃっと平面ならともかく我々人間の身体には凹凸がある。
最初はこの硬いのも中国スタイルかと気にしなかったが限界が来た。
感覚としては飲みすぎて終電を逃してしまい友人宅に泊まった時。
敷布団がないので仕方なくニトリで買ってきたであろう若草色の落ち着いたデザインのカーペットに余っていた薄い掛布団を縦半分に折り畳み、挟まるように寝た後のあの感じだ。フローリングを直に感じ睡眠の質は悪く、翌朝身体が軋むように痛いあれ。
これが一泊だけならまだしも一カ月も続くと身体がもたない。
この過酷な環境に耐えられるとすればフローリングに枕だけ置いて寝るというサンプラザ中野くんくらいであろう。狂っている。
後日、会社のボスに「マットレスが硬くて眠れず健康被害が出ている。それは仕事での生産作業性に影響するレベルに達している。直ちに柔らかいマットレスを用意するべきだ。」と酒盛りの最中に直訴した。エチルアルコールにより半酩酊状態のボスは会社負担(ここ大事)を一つ返事でOKした。
翌日、アセトアルデヒトによりデバフ状態のボスに詰め寄り就業時間中にマットレスを買いに行くことになった。
毒を毒と判らぬものは毒に溺れるのである。
小生の狡猾な毒攻めが功を奏した。
小学生時代に流行ったポケモン金銀でも通信対戦で「ちょうおんぱ」で敵を混乱状態にさせたうえ、「どくどく」で毒盛り、さらに「そらをとぶ」でターン数を稼ぎ相手を自滅に追い込むという楽しいポケモンワールドには有るまじき非道な戦法をクロバットに命じていたポケマスターの小生だからこそ成功した作戦であった。この戦法は2012年にIPC: International Pokemon Committeeにより「ポケモンに対する非人道的な作戦指導」とされ現在まで禁止されている。
話をマットレスに戻そう。
本当はIKEA船橋店あたりに買いに行きたかったが小生のマンションから飛行機移動含め往復で26時間くらいかかるうえ180*200㎝マットレスの航空輸送コストや税関での話の通用しない押し問答の発生などを鑑みて、近所にあるドアや入口などが無い、寝具屋にしては前衛的な店に来た。
横たわる埃まみれの見本マットレスで品定めし、コンクリート剤などが入れられているようなオレンジ色の袋に詰められている新品を持って帰るらしい。
衛生・清潔感などの概念や文化が全く違うためベッドを「聖域」なんて言ったら中国では笑われ者になってしまうだろう。
なんだか汚くて暗い店だなと思ったがふかふかマットレスが手に入ると思うと気にならない。小生は高揚している。
おそらく店主が中国全土から直接買い付けた選りすぐりのマットレスを余計な店の装飾などはせず、安価にスッと卸してくれるような長年愛され続けている名店なのだろう。
そうに違いない。
手前のやつから適当にボフボフ殴ってみたがどれも鈍く「ドンッ」と音がする。
どのマットレスももれなくベニヤ板がインサートされた硬いものだった。
高級なマットレスですらやはりベニヤ板が入っている。あれもこれもベニヤ板入り。
このままあの硬いマットレスで生活をしていたら昨年発症したヘルニアが悪化し、背中の痛みを抑えるために寝返りを我慢し続け、痺れた腕に血が通わなくなり両腕が壊死してしまい見た目通り漢字の「人」みたいな身体になってしまうのではないかと怯えた。
心なしかこの寝具屋もただのうだつが上がらない不衛生な店に見えてきた。
こうなったら自宅の寝室にハンモックでも張ってそこを寝床にするしかない。
落ち込みながらダメもとで触ったピンクのマットレス。
触った瞬間に伝わった。ベニヤが入っていない。
4万円近くしたが会社経費で落としてもらうので即購入。
先程まではどんよりとした陰気臭い店だったが、やはりこの店はとても優れた店で店主の一考によりベニヤ板を嫌がる日本人向けに少量ではあるがふかふかのマットレスも在庫覚悟で店に置こうと英断したのであろう。
帳簿担当の店主の嫁は無駄だと反対し大喧嘩になったが「お父さんがそこまで言うなら」と最終的には折れて発注したのだ。
あれからもう数年が経って赤字不動在庫と化していたピンクのふかふかマットレス。
ベニヤ板が入った硬めのマットレスが好みの中国人には一切見向きもされなかった。
しかし突然やってきた日本人男性が異常に興奮しながら「あった!板ないやつ!これこれ!4万!?でもいいっすかね?これください!!!」と言うと嫁は驚いたが一拍置いてゆっくり息を吸いながら店主を見つめ、優しく微笑みかけて今度はゆっくりと息を吐いた。
一方で店主は照れ臭そうにタバコを吸いながらあの日の喧嘩を思い出したに違いない。
最後に折れてくれたのは母ちゃんだぜ、と。
そんなこんなで4万円のピンクのふかふかマットレスを手に入れた。
マットレスを買った話。(上)
帰国できないと困ってしまう話
いや参ったね。
元気してるだろうか諸君。
中国の小生は元気だよ。
会社書類に使う回転印の日にちを一気にまた半年くらいグリグリ早送りしたい気持ちを抑えて一日ずつ正しい日付で今日も押印している。えらいっしょ。大人だから。
その早送りがどこを目指しているかと言うともちろん一時帰国。当然。
なんだもう音を上げたかと言われそうだがそうではない。
諸々、帰国しないと面倒だったり快適な中国での生活を送れないのだ。
ついこの前困ったのはアマゾンプライム。
契約しっぱなしで中国に来てしまったが「VPNなんかを繋げてプライムビデオとか使えるしまぁ良いか」と継続延期に高を括っていたが先日突然、「再ログインしろ」というポップアップが出てきた。知らぬ間に勝手にログアウトさせられていた。
面倒だがPCの永久凍土のどこかに書き落としたパスワードをサルベージして入力。さぁログインしようというところで再びポップアップ。
「やっぱ登録電話番号にSMSで承認番号送ったから入力しろ」
いやムリだよ。
海外でローミングオフにしてるんだから。馬鹿かっつー話。
このためだけに一瞬でも海外ローミングオンにしたら溜まっていたデータが伸ばしたゴムが千切れたように一気に飛んできて瞬く間もなく破産するだろう。
「ゆるキャン」のシーズン2が始まったから1を見直そうと思ったがまたの機会にするかと中国生活で鍛えられた精神力で融通の利かないアマゾンの馬鹿UIに大人の対応をする小生。中国独自の理不尽を経験し、身に降る数多のクソイベントを振り払ってきた。なんて事はない。
しかし数日後、事態は急変した。
どのように知ったか覚えていないが極めて重大な事実が判明したのだ。
「したのだ」という普段使い慣れない断定形を使ってしまうほどのエマージェンシー。
2021/4月いっぱいでアマゾンポイント8,000ポイントが失効する。
余裕をぶっこいていた小生だが顔色が変わる。
何かの不幸で突如として8,000円が消し飛んだり、後輩の酒臭い小便を生成する資金にされたりする分にはダメージは少ないが期限によるポイント失効ともなると別だ。
アマゾンポイントの経済的価値は現金と同等又はそれ以下であるが「努力の結晶」という一面を持っている。現金も勤労という努力の結晶ではあるが、それは稼ぐ必要があり稼いだ金であってそれに値する労力は当然のものと考えている。
アマゾンポイントはそうではない。必要外の割と無駄な努力によって生まれた稀有なモノなのである。くだらないキャンペーンに登録したり他のショッピングサイトを切捨てコツコツと積み上げた。映画グラントリノでイーストウッドが長年大切に磨き上げた愛車のように育ててきた。
先ずはオンラインで問い合わせたが自動Q&Aに誘導されアキネーターのように「君の疑問はこれかな?」「ではこっちかな?」という問答を繰り返された挙句、答えには辿り着かなかった。
この世界に自動Q&Aで解決できる問題は一つもない。小生は断言する。
アマゾンのランプの魔人は使い物にならなかったので良識を持った社会人として禁忌としていたが海外通話契約をしている仕事用の携帯でアマゾンカスタマーセンターに国際電話することに。まぁいいっしょ。会社都合の駐在で困ってるわけだし。背に腹は代えられない。
8,000ポイント失効と国際電話のプレッシャーによる焦燥感が小生にいつもの2倍早口で喋ることを強いてきている。早期決着をつけたい。
小生「もしもしアマゾン?海外にいるからSMS確認無しでログインさせて。」
アマゾン「それは出来ない。電話番号が『住所』みたいな扱いになっていて貴殿はなにか申請するときに住所不定で受理されたことがあるだろうか。否、無いだろう。」
小生「たわけコロナで帰国が出来ずSMSが受け取れないから貴様にわざわざ国際電話で直談判しているだろう。少しは働け。」
アマゾン「ログイン無理。ならぬものはならぬ。帰った時にでもまた登録しろ。」
小生「、、、8,000ポイント失効しちゃう。」
アマゾン「、、、マジ?」
暫しの沈黙。
小生「アマプラ使えなくてもいいから小生の8,000ポイントは失効させるな。」
アマゾン「無理。自動で消えるから。」
小生「国際的な大企業が聞いて呆れる。未曾有のこの時期にマニュアル対応か。上のモンと替われ。話にならん。」
アマゾン「ぐむむ、、、」
激しい鍔迫り合いが続いたが小生の「ネゴ」、いや「ゴネ」によりコールセンターの担当は面倒臭さから波打ち際に打ち上げられたカニのように白目を剥き泡を吹いて地面に倒れた。
そしてその上司を引き摺りだすことに成功。
小生「話は大方聞いただろう。勝手にログアウトさせられて海外だからSMSでのログインが出来ない何とかしろ。おっとアマゾンポイントの件も忘れるなよ」
アマゾン「セキュリティはお前のアカウントの為や。そもそも海外からとか考えてないから。マイノリティに一々合わせてらんないよ。タオバオやれよ。」
小生「出来ない話な訳ないだろう。オタクらの遠隔ログインがセキュリティ上難しくても他に方法考えろ。最悪ポイントだけ守ってくれればいいから。ぐすっ。」
小生「コロナで帰れなくて大変なうえ、こんな仕打ち酷い。うえぇ~ん。」
ここで号泣し狼狽する見事なアクト。
清々しいほどの急ハンドルっぷりに情緒がぶっ壊れていると思われただろうが構わない。
アマゾン「、、、だったらいいでしょう。この守銭奴。今のアカウントはどうにも出来ないから貴殿が新しく別のアカウントを作ってそこに新たにアマゾンポイントを付与しよう。」
小生「おうそれでええわ。できるやん。話分かるやん。」ニッコリ
アマゾン「ただし今使ってるメールアドレスは使えないから。後からの変更も無理。メールアドレスは住所みたいなもんだから。」
小生「さっきオタクの部下は電話番号が『住所』って言ってたぞ統一しろ」
アマゾン「両方とも住所みたいなもんだから間違ってない」
小生「ばか!」
アマゾン「アホ!」
小生「まぬけ!」
アマゾン「ドジ!」
小生「でもアマゾンのためにわざわざアドレス一つ持つのは散らかるから嫌だな。」
アマゾン「まぁ待ってやるからゆっくり考えたまえ」
結局マジでゴネまくり同情を買うような形で一つ糸口を見つけた。
とりあえず失効してもこの電話の記録残しといてやるから8,000ポイントは心配すんなと言ってくれた。
もちろん会話は脚色モリモリなので実際アマゾンのスタッフはものすごい腰低く丁寧に気遣ってくれてたよ。サンキューなオペレーターのY本。あと上司。ポイント頼むわ。
なんだかんだこれで解決かな。
そうそうアマゾンの話したけど買えるものは多少高くても店舗で買おうね。もちろんアマゾンもいいけどさ早くて馬鹿安いから便利だけど。ポイント溜まるしね。でも僕たちの街にお店を残そう。その辺で買えないものだけネット使おうぜ。お前が使わなくてもアマゾンは潰れねぇから。
小生との約束だ。
こんな話が結構溜まっている。ネットバンキングやら何かしらのサブスクリプションなんかでSMSにパスワード送るわ!ってやつが多すぎてそろそろ片付けたいから一時帰国したい。
もちろん帰国の目途はたっていない。
オリンピックやるみたいだし。そこで増えたらまたお預けかな。
そして今日も回転印は一日だけ進む。
中国で釣りに行った話 (下)
前回は釣りの話をしようとしたら「太公望」という言葉を掘り下げすぎてしまい断念。今回こそ釣りまで辿り着く。
12月某日、出ろと言われたから「はいはいサービス残業ね」という気持ちで参加した日本人会の懇親会で釣り好きな他社の方に釣りに誘ってもらえたのだ。
日本人会と言えど社外の人間だ!と内心ウキウキの小生。
彼らにとって小生は年齢的に早く生まれた息子くらいになるのでウケがいい。
実際の親子だったら「このバカ息子が!怠け者!」と罵られるが、小生ですら余所行きで振舞えば「うちの愚息と比べてなんてしっかりしているんだ!」と錯覚を起こさせる事が可能なのだ。
日本人会でよく釣りに行くのは2人だけらしい。
みんなにも紹介しよう。
1人はホソヤン。非常に温和で人柄が良く、「ゆっくりと海で釣り糸を垂らすのが好きなんですよね」というセリフが非常に似合うミスタージェントル。アニメ版の呪術廻戦のナナミンが優しく淡々と話すような感じのクセになる口調の持ち主。自称ゲテモノ喰いで好物は中華風茹でザリガニとスプライト。
もう1人はサッサン。見た目が完全にプロレスラーの武藤啓二。腕毛のハゲ方からしておそらく柔道家。阿部寛よりも声が低く、ぱっと見は威圧的だが話してみると意外と相手をしてくれて兄貴肌なタフガイ。近所の日本料理屋で会うと膝を折って少しお話をしてくれるほど丁寧で歳下相手にも礼儀を忘れない繊細さというか配慮がある。漁師町、沼津出身らしい。
2人は同年代のようで40後半。 釣りはこちらに来てから本格的に始めたらしいが、今ではどっぷりハマり込み毎週末海に行っているという釣りキチコンビである。
二人しかいないが商工会釣り部と名乗っており、小生が釣りすると聞きつけて誘ってくれたのだ。
早速、週末に予定が入った。
2人の会社の現地スタッフである「シャアさん」という方も一緒に来るという。
ボートでキビレ釣りに行くって。
キビレって魚。
下側のヒレの先が黄色いでしょ。だからキビレね。
そんなキビレと言えばチヌ釣りや筏のダンゴ釣りで来る雑魚。
カブトムシ捕りに行ってエンカウントするカナブンの様な存在だ。
チヌ釣り激戦区の瀬戸内、荒磯チヌゲームの山陰で鍛えられた小生の相手ではない。
ホソヤンにもサッサンにも悪いが格の違いを見せつけてやろうといった感じだ。
二人はちゃんとした大人なので腕前を謙遜していたがシャアさんだけは別格だと言う。
「我々はペーペーですが、シャアさんは上手いですよ。きっと勝てません。命賭けてますから。でも出来ればシャアさんの鼻っ柱を折って頂きたいですね。」
ホソヤンの落ち着いた口調で「命賭け」とか聞くとマジなんだなと妙に納得できてしまう。
当日はシャアさんが車で迎えに来てくれた。
シャアさんは眼鏡をかけた仏僧のような見た目。寡黙だが機嫌が悪いわけではないんだなとわかる温和な雰囲気だ。よろしくシャアさん。悪い奴じゃあ無さそうだが鼻っ柱をぶち折らせてもらう。ジャパンプライドだ。
日本から応援してくれている 1億2335万2千人の期待に応えなければならない。
残念なことに「沼津港の武藤啓二」ことサッサンは前歯のインプラント治療を受けたところ顔面が腫れ上がり発熱、よって不参加。武藤ではなくまさかのディック・マードックであった。
ということで今回のメンバーはシャアさん、ホソヤン、小生の3人。
ホソヤンが淡々とスケジュール説明を始める。
1時間の車移動
朝ごはん
お昼ご飯の材料調達
釣り餌のエビの調達
シャアさんのボートで15分くらい沖に出て釣り開始
腹減ったタイミングでシャアさん特製の牛骨粥をいただく
15時くらいに終了
17時~18時くらいに帰宅
まさかのボートの主であったシャアさん。船上調理とかするあたり彼がガチ勢なのがそこはかとなく伝わった。
というか今回の釣り自体、シャアさんに連れて行ってもらうということか。
道中、シャアさんの車では朝から爆音で中国ポップスが流れる。
たまに流れるマイケルジャクソン。これはいいね。Man in the mirror 流れた。
爆音の後部座席でホソヤンと釣り談議に花を咲かせていると現場到着。
とりあえず朝飯は屋台でお米の麺。
小生は朝めしを食うと昼まで胃が凭れてしまうためペプシを頼みクールに乾杯。
「なんなんですかね。なんかどこで食べても生臭いんですよねこういうスープ。」とホソヤン。わかる。
シャアさん、というか中国の方はがっつり朝飯を食べる。量が多すぎてホソヤンが1/3しか食えなかった麺をすべて食べた。朝飯で日本の「ラーメン 大」くらいの大盛をペロリ。
腹ごしらえをしたところで今度は昼飯の具材調達へ。
まだ薄暗い市場に寄って牛肉のバラとアバラ当たりの牛骨を購入。
「この薄暗い市場で切られている肉を見ると完全にバイオハザードですよね。」とホソヤン。わかる。
ちょっと恐ろしい市場だが品物は逸品らしい。
上海から来た客が「こっちの方の肉は新鮮で美味しい」と言うらしい。
日本では一定水準の衛生と鮮度を下回ったものを食べる機会がほとんどないのでスーパーの見切り品の蒼痣が出来たような肉を買うとたまに臭いなと思う程度だったのであんまり気にしたことが無かった。
新鮮と言ってもシャアさんの作ってくれる牛骨粥が臭かったら嫌だなぁなんて思っていた。ごめんシャアさん。だって肉のお粥だぜ。ビビらない方がおかしい。
ホソヤンも「なんなんですかね。なんかどこで食べても生臭いんですよねこういうお粥。」とか言うかもしれない。
友人としてせっかく作ってくれるのだからへんな気を遣わせたり残念な感じにはしたくなかった。 期待と不安が目盛りぴったり半分くらいである。
シャアさんの牛骨粥、頼むから美味しくあってくれと祈ることしか出来ない。
飯関係はすべて整ったので今度は釣り餌を買いに行く。 日本だと考えられない安さで活きエビが買える。
準備が終わったのでいざ釣りへ。 まずは沖へ出るためのボートへ向かう。
とにかく汚くてゴミが多い。悪い方のChinaって感じ。
小型のボートで沖の筏まで行ってそこに停泊させてあるシャアさんのボートに乗り換えるという。
小型ボートは大人数人が膝を折ってギリギリ乗れるくらいの大きさ。
「トムソーヤーに憧れた中坊が作った超大作の筏船」と言えば想像できるだろうか。
形状は船というよりもボディボードみたいな形なのでエンジンを掛けて進むと波がザッパザッパと入ってくる。沖の筏に行くまでにみんなずぶ濡れになってしまった。
そこで小型の筏船から筏に停泊していたシャアさんのボートに乗り換える。
ホソヤンとサッサンはこれを「トランジット」と呼んでいるという。
20ftくらいの思ってたより大きな船で驚いた。 自家用車に釣り船まで持っていて毎週釣りをしている謝さん。 現地スタッフがY社でいくら稼いでいるかは知らないがすごい。
これはほんとに命賭けというか生活賭けてやっている。
沖の良さそうなポイントに停泊させてシャアさんが錨を下す。
ついに釣りスタート。寒いけど良い天気だ。
使う竿は2本
活きエビを泳がせて大型のスズキを狙う泳がせ釣り用の竿を1本。
ぶっこみ仕掛で本命の小型キビレを狙う竿を1本。
ぶっちゃけ余裕だな、と確信。
泳がせ釣りなんてのは何となくタナ(魚がいる水深)を見極めてほっとくだけ。掛かったら優しくやり取りすれば60~80㎝くらいまでのスズキなら日本でも問題なく捕ってきた。
ぶっこみ釣りに関してはぶっこんでおくだけなので問題なし。モーマンタイ。
面白味は少ないがまぁシャアさんが上手かったところで大差はつかないだろう。
初回にして小生が同じくらい釣って拗ねてしまうかもしれない。
事前情報ではここ数日はあまり釣れいていないらしく10㎝~25㎝くらいのキビレが10枚釣れれば良い方らしい。スズキも50㎝が数日に1匹釣れる程度。
まぁ見ておけ。
鋭い眼光。タバコの煙をブンブカふかしながら糸を垂らす。
余裕のよっちゃん。釣って当たり前田のクラッカー。
釣れない。全然釣れない。1時間も2時間も何にも反応ない。
でもみんな釣れていないので魚がいないんだじゃあしょうがないよねぇ。
ホソヤンと「釣れないですねぇそうですねぇ」なんて気を抜いていると
『シャララ!』
置き竿の達人シャアさんの竿につけていたスズが鳴った。
半月を描くような鋭いアワセ!乗った!
そのままなんなくやり取りしてシャアさん15㎝のキビレを釣り上げる。
やられた。中国代表シャアさんから先制パンチを喰らってしまった。
その後もシャアさん連発。4枚のキビレを釣る。
焦る小生。な、なにが違うんや!
日本の約1億3千万人からのため息が聞こえる。
あんな余裕ぶっこいていたのに4-0と圧倒されている。
タバコなんて吸ってる場合じゃない。
なんとか一本返したい!
チョチョン
竿先が微かに動いた。
ここはゆっくり食わせていてはだめだ仕掛けるしかない!
微妙なあたりに渾身の鬼アワセ!一か八かだ南無三!
少し重みを感じる。魚が掛かった!
小生の気迫が届いたのか極小サイズのキビレを1枚。
ライバルのシャアさんもお祝いしてくれている。
小生、指すごい綺麗じゃない?
日本では間違いなくリリースするサイズだったがシャアさんが「食べる」と言うので1枚とカウント。セーフ。
午前中は4-1。
ちなみにホソヤンは2枚釣っていた。ビリじゃん小生。
小生とシャアさんは何がそんなに違うんだ。おかしい。
何かやたらと餌付け変えたりしていたな。仕掛がちょっと違うのか?
くやしかったのでシャアさんの仕掛けを真似しようと覗きに行くと衝撃の光景。
なんとシャアさんは8本もの竿を出していたのだ!
説明しよう!
日本で「シャア」と言えば機動戦士ガンダムの「シャア・アズナブル」の『通常の3倍~』だが中国のシャアさんは小生が竿2本に対して竿8本であるから『通常の4倍~』とシャア・アズナブル越えをした8本置き竿をしていたのだ。こういえば諸君らのようなオタクでもシャアさんの高スペックさを理解して頂けたと思う。うむ、ライバルとして不足無し。
ただし多けりゃいいてっもんじゃない。ぶっちゃけ日本でも8本竿出す強者は見たことない。こんなに出しても結局扱いきれずにてんてこまいになってしまうのだ。
それを機械的で無駄ない動きで餌を付け替えながら微妙なアタリを拾っている。
3顔面6本腕の阿修羅様でも扱いきれないぞこんな本数。弁天様かよ。
何となく魚の反応もなくなってきたので昼飯タイム。
濁った海水で鍋と食器を洗うシャアさん。
この辺あんまり気にならない小生。
ホソヤン曰くサッサンは当初ドン引きしていたという。
サッサンだけ未だに食器はペットボトルのミネラルウォーターで洗うらしい。
お粥を炊くための水はちゃんと真水。
ただしどこから汲んだ水かは不明らしい。
水バシャッ!牛骨ドボンッ!牛肉ベシャ!生米サラサラ!塩ペッ!点火ボッ!
おしまい!
あとは炊くだけ。
慣れた手つきで一瞬で調理を終わらせたシャアさん。
料理は一刻も早く終わらせて8本の置き竿に魚が来ていないか見たくて仕方ないようだ。
30分ほど放っておくといい匂いがしてきた。
鍋はもう牛骨エキスたっぷりのお粥が完成していた。
ちょくちょく灰汁取りもしていたしなんせ臭くない。これは美味いかも。
獣臭いお粥だったらゲロを吐いてしまうかもしれないがいざ実食。
美味い。ビックリするくらい美味かった。
新鮮な牛肉万歳。
全然臭くないししつこく無い!なぜ日本でこの料理が無いのか。
冷えた体に濃厚な牛骨エキスたっぷりの優しいお粥。
お好みで海南胡椒とかいう胡椒にエキゾチックな何かを加えた香辛料を振るとまた癖になる美味さ。
シャアさんこれすんごい美味いよ!と伝えると照れていた。
ただし炊かれて粉砕された牛骨の骨片がちょくちょく口に入る。
それをペッペペッペと海に吐き出しながら食べなければいけない。
中国あるある
肉使った料理、骨を気にしなさすぎ。
ガチョウを食っても豚を食ってもどの肉をを食べても大体骨ごと叩き切って使っているので骨がゴリゴリ入っている。
ご馳走様、シャアさん、本当に美味しかった。次行く時も食べたい。
「このお粥をね、食べた後のタバコが一番美味いんですよ。」とホソヤン。
この後も釣りを続けたがシャアさんが爆釣し20-5で大敗した。
シャアさん強い。日本のみんなすまない、初戦は黒星スタートだ。
ホソヤンもキビレは5枚だったが泳がせ釣りのスズキを見事取り込んでいた。
シャアさんは夕飯の魚だけ取って後は売りに行った。
中国では釣った天然物が人気でその辺で結構いい値段で売れるらしい。
今回は初回で掴めなかったという言い訳もあるが完敗だった。
ただしこれで「折れないめげない諦めない」の小生。
シャアさんの弁天様8本竿対策も練れている。
このまま負け続けることは太公望小生の矜持が許さない。
果たして小生はシャアさんに勝つことはできるのか。
次回、こうご期待!(まだ次の釣りに行ってすらないので書いてないです。)
コロナと小生の話 (下)
※2020/05末くらいに書いたやつ※
仕事着がない。
海外駐在員の一時帰国時の出社は何となく普段着でもOKといった暗黙の了解があるのだが戻る目途がたたないため通常出勤になるので出来れば仕事着が欲しかった。
初日はスラックスやシャツなどはないので普段着のズボンを履いて何となくセーターっぽく見えるユニクロのプルオーバーフリースを着て出社した。
精一杯のフォーマルである。
千葉では似合うと褒められたが関西の田舎臭い芋侍が集う弊社では「フリースなのにジッパー無いやんw」という反応であった。
相変わらずコロナ、O157 いじりを受けながら仕事をしていると「でもよかったじゃん日本に長くいられて」と言う人も出てきた。
悪気はないのだろうがこれがしんどかった。
確かに日本にいるのはいいのだがこの宙ぶらりんが続くのは大変なのだ。
半年前、関西本社を鬱陶しく思い、田舎暮らしで大した事もなく仲の良い先輩や友人は転職してしまったのでいち早くここから脱出したかった。その折に来た中国赴任の話だったのにこれである。
息継ぎをしようと水面に顔を出したら一瞬にして足を引っ張られて水中に戻された。
承太郎がDIOにやったやつ。息が続かない。
ただまぁ仕方あるまい。我慢だ。
夕方のニュースではどんどんコロナが感染拡大していると言う。
どうも戻れる気配が無い。
数日働くとパンツなどが足りなくなる。
ズボンではなくパンティだ。ズボンもないが。
スーツケースひとつの荷物では数カ月はもたない。
いつも同じフリースを着て会社には行けない。
着るものも履くものも何もない。
なんせ全部中国だもん荷物。
ユニクロでスラックスやセーター、パンツなどを買った。
はい1万円。
洗剤がない。歯磨き粉がない。食い物がない。日用品全部ない。
はい1万円。
出社する靴や傘、仕事道具もペンもない。全部中国持って行っちゃった。
はい1万円。
寮の後輩デーモン達が腹を空かせて外食についてくる。
はい1万円。
寮費払ってね。
はい1万円。
ド田舎なのに車が無い。社用車借ります。
はい週500円。
会社からの支援はない。
強いて言えば車の有償レンタル。有償かよ。
さまぁ~ず三村もここまでストレートにはツッコまないであろう。
休みの日だって趣味の釣り道具も本もない。
金は減る一方。
日本の口座には給料とは別で留守宅手当が数万円入るが税金が引かれて口座には寸志の額だけ入る。
はい差引して大赤字。
ベースの給料は中国口座支給。
しかも収束まで日本勤務になったため給与の大半を占める「地域手当」「職責手当」をカットされた。
恨むべきはウィルスなのに会社に腹が立った。
なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ。
そういえば話題の給付金よ。
コロナの影響で日本に足止めを喰らって難民状態だが住民票を中国に移しているので給付金がもらえない。全国民と言ったくせに住民票登録の有無で決まった。
一寸先が暗いような生活難とまではいかないがコロナウィルスによって収入は半減、自由に手を付けられる金は上記の1万2千円、荷物や日用品もない。サバイブするために預金と身を削って乗り切ろうとしているのに、住民税も年いっぱいまで払っていたのにこの仕打ちである。
住民票基準でないと関係のない在外日本人全員にも配らなきゃいけなくなるって言うなら役所で本人申請したらOKじゃダメかね。その期間は日本にいるんだから。
会社に相談しよ。
小生「会社都合の赴任で10万もらえない。荷物が無いから明日着ていくシャツもない。買わなきゃなんにもないわけ。言いたいことわかる?小生が一番困ってんの。お前らが給付金出せよ。」
経理「給付金は会社とは関係ないから無理です。」
小生「そうですね。失礼致します。」
後ろ腕組みで中指を立てた。
困ってるんだ、10万くれよ。
※2020/12現在も夏に予算が通ってぬか喜びした以来、在外邦人への給付は無い。
帰国したら真っ先に議事堂に糞をぶっかけてやる。
中国での生活も仕事も潰された。
荷物も中国。出費が嵩む。日本の仕事は訳が分からん事をさせられている。
土日が来ても友人は近くにいない。おまけに外出自粛を強いられている。
緊急事態宣言から都内などでも自粛や我慢が続き職を失って食えなくたった知り合いもいる。
働けているだけマシ、と思う一方、
小生はもうずっと前の2月半ばから我慢と自粛が続いている。
元の生活に戻れる目途もない。
「なんで小生だけ、、、」
小生だけでないのにそう思っていた。
数カ月経った。
地方組の唯一の癒しであったGWの帰省も感染拡大防止のために我慢せざるを得ない。
兄弟友人とのバス釣り大会、大学同期の友人たちとの時間、会社を辞めて東京に住むブロとのお食事会、地元のバカうまいコーヒー屋でタバコ吸う、同級生とのポケモンバトル、気になるあの娘とのデート、ザリガニ取り、猫のちゃぴもんと散歩する、家系ラーメンを食う、オカンとホームセンターに行ってデカい観葉植物を買ってやる、親父と近所の寿司にいく、あと諸々まだまだ、最後に足りない服とか荷物を実家から回収する。
全部白紙。
世間の暗い嫌なニュースしか入ってこない。
自粛をするとかしないとか、マスクを着ける着けないだので感染予防などを飛び越えて各々の意思や価値観が剥き出しで晒され、エルサレム奪還の宗教戦争のようになってきている。カオス。
GW、仲の良い後輩が東京へ帰省した。
自粛が自粛である以上、自粛警察みたいな阿呆にはなりたくないが腹の底ではムカついていたと思う。
「こっちは我慢してんのになんでお前だけ。お前みたいなやつのせいで。」
でも【感染拡大防止】という大義で「小生だけ損はしたくない。」という気持ちを隠しているだけだった。全く以って自身が未熟で情けなくなってしまった。
後輩は元気に寮に帰ってきた。その晩小生の部屋にも普通に入ってきた。
ドス黒い感情に蓋をするため Netflix の Good Place を観て寝た。
今朝トーストを焼きたかったがお気に入りのあのトースターがない。
昼から人込みを避けて釣りに行きたかったが釣具がない。
夜はレイトショーに行きたかったが開いてすらない。
さっき爪を切ろうと思った。爪切りも無かった。
我慢して、落ち込み、苛立ち、とても疲れた。辟易している。
ここだけ見ると病んでいるように見えてしまうがご安心を。
小生は怒っている。5分に1回の頻度でキレている。
今、変死したら文字通りに「マジの憤死」だと後世に伝えてくれ。
鬱憤を晴らすために最近は肩甲骨回しと裏山でのウォーキングを始めた。
金もかからないし思いのほか気持ちが晴れる。
次にみんなと会うときはファイトクラブのブラッドピットみたいになってるぜ。
コロナと小生の話 (下)
中国で釣りに行った話 (上)
小生のワールドフィッシング編
東南アジアに旅行に行けば観光そっちのけで巨大ナマズを釣りに行ったり、オーストラリアでは釣りあげたら100万ドル貰えるタグの付いたバラマンディを探しに行ったりと趣味が高じて世界でもその名を轟かせる小生。
そんな小生もついに中国デビューである。
西側諸国では「極東の小さな島の釣師が大国Chinaへ殴り込み」と噂になっていた。
日本からも多くの応援の声があった。ありがとうみんな小生頑張るよ。
中国ってあまり釣りのイメージが無いかもしれないが実は人気。
例えば中国での釣りの大会、その名も「釣王」。
中国全土から集まった猛者たちがただ釣りをする大会なんだけど出場者の分母がデカいのでおそらく1回優勝すれば優勝賞金やスポンサー獲得、各地の講演会などで一生暮らしていけるレベルだと思われる。
日本でも釣りの全国大会はあるがそんな稼いだりするなんてまずあり得ない。
歴史は非常に古くからあり、中国史と釣りに纏わる言葉なんかもある。
諸君らも「太公望」という言葉を聞いたことがあると思う。たいこうぼう。
封神演義の主人公!でも意味はよくわからんという言葉。
さてここでクエスチョンです。
この「太公望」という言葉はどういった人のことを指す言葉でしょう。
テケテケテケテケテケテケテケテー
?「果たしてこの「太公望」とはどのような由来と意味があるのでしょうか。」
?「あのー、それは字面からだけで答えは出ますか?」
?「いえここはノーヒントでお願いします。」
?「ほなわからんわ~」
?「タイムアップです。それでは解答を見ていきましょう。坂東さんは『太った人』。それに野々村さん、東さんも同じく『太った人』。あなた方はやはり固まりますね。スーパーひとし君の黒柳さんだけ『釣り好きな人』ということですね。」
それでは行きましょう、世界ふしぎ発見ッ!
時は遡ること紀元前10世紀。
周の初代国王の文王。
戦とかも起こってっけどまぁ普段は暇な文王。
ヨドバシの抽選ハズレてプレステ5まだ買えないしNetflix大体観ちゃった文王。暇だな。狩りでも行くかってことで出発前に朝のテレビの占い見る感じで占いしちゃおっと。
「B型うお座の貴方、運勢は絶好調で1位、今日の獲物は龍でも虎でも熊でもなく、覇王を補佐する人物」
100%裏で部下が手を回してる。占いで覇王って何。仕込み感MAX。
しかし温室育ちで純粋な文王は「えッ!ヤバっ!マジ?」という反応。
占い1位だし覇王って多分俺の事だしめっちゃ良い部下できるっぽい。最高かよ。
ルンルン気分で文王は狩りに出かけると、道中で釣りをしているジジイを発見。
今朝の占いにもあったし、ちょっくらこのジジイと話でもすっかと談笑。
そういやこの辺にヤバめのジジイいるって噂を聞いてマジで気になってたんだよね。
文王 「うぃ~っす。釣れてんすか?つうかおっさん何釣り?バス釣り?」
ジジイ「水面に糸を垂らしているだけ故、何とせずとも善いのです。」
文王 「は?」
文王、ジジイの言ったことがイミフすぎてぴえん。でもなんかスゲェと感じる。
名を呂尚と言うらしくよくわかんないけどマジ賢そう。見た目の割にインテリっぽい発言のギャップで文王イチコロ。
文王、そういや昔、祖父ちゃんが「たぶんだけどそのうちすげぇ奴が出てきて国が栄えるわ」と適当言ってたことを思い出す。
占いも祖父ちゃんも言ってた。それにあの噂もあったしこの呂尚とかいうジジイがやっぱそれだわ!と大興奮。
文王はもうこの時点でこの呂尚というジジイを「先生」なんて呼んじゃう始末。
文王「呂尚先生まじスゲぇしちょっと一緒にオモシレー事出来んじゃね?ってインスピったんでバイト代めっちゃ出すからトゥギャりません?」
呂尚「ふむ、是もまた縁ゆえ。」
文王「は?なんつったの?やんの?やんねーの?どっちかわかんねぇんだけど。」
ついに出合った「太公」(文王)が待ち「望」んだ逸材の釣り好きジジイ呂尚。
こっから文王は呂尚を馴れ馴れしく「太公望」ってあだ名で呼んだことから派生して「釣り好き」という意味を待つようになったのです。
なので正解は「釣り好き」
?「と、いう事で黒柳さんだけ正解です。これで本日はパーフェクト賞も獲得致しました。この後のクイズに正解するとJALから『文化の香り、中国3泊4日世界遺産紀行』と『太子海公司の最高級茶葉セット』をプレゼント致します。」
?「それではラストミステリー、世界ふしぎはkk…」
これには裏話があって実はこの呂尚、実際は釣りをしていなかったのだ。
鈎もエサもつけていなくて、川の水面より上にその糸を垂らしていたのだ。
ド変態。
遠目で見れば釣りしてるジジイなのだが、よくよく見ると竿をもって糸を水面スレスレでキープしているという意味不明な奇行。しかも毎日。
完全にイカれである。
周りの人たちは頭がおかしくなったと噂をし、奥さんもドン引きで逃げてしまう。
それでも呂尚はこの変態行為を辞めなかった。
当然話題になり、町で噂の有名なヤバいジジイになったのだ。
最初はただ白い目で見られていたがそのうち違う見方をするものが出てきた。
野次馬「釣りしてるけど釣りしてない。なんなん?哲学的なやつなん?どっちだ?もしかしてなんか意味あったりすんの?修行?」
変態と哲学のスレスレのラインを攻めた行動なのではと物議を醸しさらに人気爆発。
夕方のワイドショーでも変態ジジイ特集が組まれたりして、なんと実は文王の耳にも入っていたのだ。
文王「プレステ5の予約全落ちしたんだけどマジ無くね?俺、王なんだけど。」
代官「それより文王聞いた?インスタとTiktokでめっちゃ見かけるんだけどなんか毎日釣りしてるけど釣りしてないヤバめのジジイがいるらしいよ。マジ哲学。やばいっしょ?深くね?」
文王「それはヤバい。たぶん絶対に賢い。微妙なとこだけどワンチャンある。」
代官「今度ザ・ノンフィクションにも出るらしい。」
文王「チャンス大城がやる奴じゃん!ヤバ!」
興味津々の文王は家来をパシって呂尚の所に行かせるが、全然相手にされない。
文王も小物を相手にしない呂尚を「マジぱねぇ」と評価。
今度暇があったら狩りのついでにそのジジイのとこ行ってみんべ!
そして物語は冒頭に戻る。
じつはこの変態イカれジジイと思われた呂尚、変なことして有名になり、実は一周回って「めっちゃ賢くて哲学的な感じじゃね?うちの参謀にでもしようや」となるように魚を釣らずに文王釣ろうとしてたんだよねっつー話。なんという後付け感。
ご都合主義過ぎて週刊少年ジャンプで10週連載ももたない作品レベル。
その後呂尚は文王の側近として殷をボコして斉の王様になってめでたしめでたし。
まったくユルい構成の逸話だ。
小生の脚色もグダグダで文王と会った時の呂尚ってたぶんそんなジジイじゃないだろうし文王も馬鹿丸出しでなくもっと綺麗で正しい話し方をしていたはずだ。
小話を世界ふしぎ発見で囲うにしても長らくあの番組見てないからよくわかんないわ。
前置きの小話が長くなったがこんな話が残っていることからも、中国では単なる狩猟ではなく文化として古くから釣りが愛されていることが分かってもらえるだろう。
みんな戻ってきて。文王とか呂尚の話じゃなくて小生の話だから。
そんな「太公望」な小生が日本人会で知り合った方々と釣りに行くよって話がしたいわけ。三文字のためにこんなに書いてしまった。
この先もこの文体だと厳しいので今日はここまで。仕切り直そう。
次回はちゃんと釣りに行きます。こうご期待。
コロナと小生の話(中)
※書いたの2020/05くらい※
自宅待機から再び本社に召集された小生。
中国渡航まではホテル暮らしかと思いきや社員寮に戻されてしまったのである。
そして検便をした。
命からがらcovid-19の恐怖から逃げ果せた小生であったが安息の地はない。
寮という魔窟に戻って生活していると後輩と呼ばれるデーモン達が「お久しぶりっす小生さん」と涎を垂らしながらゆらゆら近寄ってくるがその中に一匹だけ顔面蒼白で冷えピタを張っているやつがいた。比較的デーモンの中でも知能指数が高く真面目な光崎デーモンだ。
小生 「どしたの光崎デーモン。調子悪いの?」
光崎デーモン 「そうなんすよ。発熱と下痢がひどくて、、、」
小生 「コロナだったりしてな」
光崎デーモン 「こっちのセリフのはずなんすけどねそれハハハ…」
なんて他愛もない話をして光崎デーモンは大人しく自分の巣に戻っていった。
翌日、光崎デーモンは体調不良で欠席していた。
光崎デーモンの部署の人に
パイセン「小生くん寮戻ったんだ?
数日前から体調悪そうだったけど光崎デーモンくん大丈夫?」
小生 「昨晩会ったら死にそうだったし今朝時点で死んだかもしんないっすね」
と話しているとその人に光崎デーモンから着信。
電話を取ったその人も話しているうちに昨晩の彼のように顔面蒼白になっていく。
電話が終わるとその部署で「明日この部屋の全員病院行って検査」という命令が出た。
小生 「お、小生を差し置いてコロナ?うつしちゃったかなガハハ」
パイセン「いや、もしかしたらそれよりやばいかも」
小生 「え?感染するタイプですか?」
パイセン「ちょっと言えない」
小生 「小生たち寮での濃厚接触者だから教えて」
パイセン「そりゃそうか。」
パイセン「O157だって」
はいきた。嘘だろ。
光崎デーモンは季節外れのO157に感染していた。
O157って夏になるやつちゃうんか。
症状が重篤らしく急遽、隔離入院になったとの連絡だった。
大パニックの寮生。
会社からの定期的な視察で寮の衛生状況が注意されなかったことは一度もない。
バカきたねぇため幾度となく総務から指導が入っているが、人間との文化の違いで野良デーモン達は理解できず「…そ…うじ…?」といった感じでいくら注意しても無駄なのだ。
そのため役員含め総務からは「寮のキッチンからO157が出たに違いない!あの馬鹿どもが!もう寮と寮生を丸ごと焼き払うしかないッ!!!」という怒号が飛んでいた。
しかし原因はおそらく数日前に焼肉に行った際に食った生焼けのホルモンではないかと仲間の野良デーモン達がおろおろ怯えながら言っていた。
思い返せば前に焼肉に連れて行ったら知能指数が低い彼らは強火の中心にホルモンを置き、ホルモンから垂れた脂で網は大炎上、その業火で表面が焼け焦げ、あせって生焼け状態で食べてしまう愚行をみせてきた。
その後も小生が遠火でじっくり焼いているホルモンを強奪し強火直下で表面丸焦げ中生焼けにして「焼けましたよ」とわざわざ取ってくれてたな。
「寮と寮生ごと焼き払い事実を無かったことにするべき」というタカ派と「消毒で様子を見よう」というハト派での話し合いの結果、野良デーモンごと焼き払うなんて冷酷で差別的だ、と企業イメージを損なう可能性が考慮されすぐさま会社の素人感染症対策衛生班(総務課)が寮に消毒スプレーを撒きに行った。
マスクに手袋をした大人が所構わずアルコールを噴霧している。
もうええんじゃこういうの。小生は中国でもう見てるから同じようなやつ。
勘弁してほしい。
コロナに続きO157の危険に晒される小生。
翌日には保健所の黒スーツがやってきて素人感染症対策衛生班(総務課)の消毒対応の甘さにこってりと説教をして指導のもと寮を再消毒。
寮生は濃厚接触者として検便の義務があり自分の糞を綿棒で突かなければいけないことが決定した。
野良デーモン達は阿呆なのでうんちをつっつけることを面白がっているが小生には自分の出した糞便を突かなければなれないのは非常に屈辱的であった。
それに小学生以来の検便なのでやり方がわからなかった。
どうやんのあれ。紙コップにうんこ出すんだっけ。
尿と違って放尿中にサッと採取したり出来ないし、便器へ落下中の糞に対して瞬時に綿棒を突っ込む自信はない。
検便の上手な仕方をツイッターで募集したところまさかの女の子の同級生から「逆方向を向いてするといい」という有益な情報を得た。
洋式便器を抱え込むような姿勢ですると便座手前のシャローエリアに脱糞可能とのこと。
そこから穴に落ちたマンモスに槍を投げるように安心して綿棒を刺せるのだ。
古代原子の血が騒ぐ。良い作戦である。
教えてくれた麻子ありがとうこれなら成功するぞ。
明朝、便意がやってきた。遠く朝靄の向こうから決戦の法螺貝が鳴った音が聞こえた。
待ったの無しの一発勝負である。
急いで検便キットを手に持ち、教わった便座を抱える姿勢へ。
が、座れない。
完璧に思えたこの作戦にも穴があったのだ。
膝下まで下したズボンが便座の手前に引っ掛かり座れない。穴どころではない。大きな誤算だった。
肛門が便座の遥か手前にある状態で動けない。
その時点で感覚、すでに頭が出ている。
1枚しかないスラックスに糞を引っ掛けてしまう。
もしくはこのまま床に脱糞してしまうかもしれない。はたまた両方か。
糞便の中にO157菌が潜伏していたら床から感染が広がり、場合によっては小生の排便ミスで人を殺してしまう可能性も出てきた。親が泣く。被害者の両親も泣くだろう。
そうでなくても床脱糞を後輩デーモンに見つかったら寮生の間で長年語り継がれる伝説となってしまう。その場合は小生が泣く。
そのまま通常の姿勢で排便すれば危機は回避できるが総務部に下記の様に説明しなければならない。
「検便の時にそのままうんちが流れてっちゃって取れませんでした。」
大人の吐くセリフではない。
生唾を飲んだが冷静になり事前準備していたB案を思い出す。
トイレットペーパーで島を作る。
柔らかい土台だが便器内のシャローフラットエリアにトイレットペーパーを放ちペーパーアイランドを誕生させれば正面座位でも糞が湖底へ滑落をするのを抑制することが出来る。
少なくとも糞の尻尾辺りを島に乗せさえすれば検便は可能だ。
安定感のあるタクティクス。これだ。
急いでトイレットペーパーを引きずり出し手にまとわりついた紙を便座内に放ちシャローエリアからシャローフラットエリア、便器の中心にかけて日本創成伝説の弉諾神の如く半島を誕生させ、即座に身体を反転させ脱糞した。
半島にしっかり乗った。水辺で息絶えたマンモスのようである。
神から原人に戻り綿棒を取り出して一突き。
マンモスは力無く横たわっている。
安堵と達成感に包まれながら検体をしまった。
無事検体を採取し悠々と総務課に提出したが光崎デーモンが入院している病院から連絡があったようで、「ベロ毒素」という危険な毒素を発生させるO157 ではないので検便は不要とのこと。やっぱ小生たちのクソは要らねぇってよ。
受け取れよ。あんなに頑張ったのに。
保健所も市内で年に3件くらいしか起きない事件だったし、まさかの冬場で張り切りすぎたようだ。
行く先々でパンデミックが発生し常に何かしらの保菌者扱いされていたため会社では「疫病神」と揶揄されたが流石にみな同情の顔をしていた。
「小生くんは人柄の良さからウィルスや菌にも好かれるんだよ」
「免疫力が強いとモテます」
「お前からワクチン取ろう」
といった称賛や同情も聞こえてきたが今まで以上に物理的な距離を取られている。
1歩近づくと2歩下がられる。
そんなこともあり小生は小池のばあさんが「3密じゃ」と言う前からソーシャルディスタンスを取られていた。多分日本で最速だったんじゃないかな。
コロナと小生(中)